消えた「虹ヶ咲学園"前"駅」の怪
インターネットの皆様、こんにちは。
先の秋クールに放送されたTVアニメ『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』(アニガサキ)、最高でしたね。これほどアニメにのめり込んだのも久々です。
交通系オタクの一般的傾向として「気に入った作品の聖地を巡礼したがる」というものがあることはよく知られておりますが、私も漏れなくこの性質を持っており、最近だけで20日以上も臨海副都心周辺に滞在しておりました。
さて、こうして幾度も巡礼を重ねていると、ある程度はその場所の土地勘や交通事情が把握できてくるものです。そしてそれを作品世界での描写と比較すると、どうしても違和感や疑問が生じる箇所が発生してきます。
そこで弊ブログでは、アニガサキに関するこうした疑問のいくつかについて、少し掘り下げて考えてみようと思います。開設直後から硬派なくせに宙に浮いた奇特な内容となりますが、しばしお付き合いくださいませ。
初回となる今回は、作中世界における虹ヶ咲学園周辺の駅名について検討します。
目次
1.学園周辺の鉄道駅配置
コミックマーケット等で何度もお越しの方は当然ご存知かと思いますが、虹ヶ咲学園のモデルとなった東京ビッグサイト(東京国際展示場)周辺には
- 東京臨海高速鉄道りんかい線 国際展示場駅
- 東京臨海新交通臨海線(ゆりかもめ) 有明駅
- 東京臨海新交通臨海線(ゆりかもめ) 東京ビッグサイト駅
の3駅が存在します。
各駅の位置関係については、以下の画像をご覧ください。
ゆりかもめの有明駅とりんかい線の国際展示場駅は相互に乗り換え可能な距離で近接している一方、施設本体からはやや距離があります。一方、ゆりかもめの東京ビッグサイト駅はより施設至近の箇所に設置されています。2019年までの旧称が「国際展示場正門駅」であることも頷けますね。
2.『無敵級*ビリーバー』~アニメ12話までの描写
それでは、この3駅がどのように作中世界で登場しているかを確認してみましょう。
まずはりんかい線の国際展示場駅について検討します。この際に大きなヒントとなるものは、以下のリンクにて販売されていた第1話公式メモリアルグッズです。
パスケースの内部には、「東雲⇔虹ヶ咲学園前」と表記された6箇月通学定期券のレプリカが入っています。
上原歩夢(と高咲侑)の住居が東雲キャナルコートCODAN*1をモデルとしていること、東雲地区に他の鉄道駅が存在しないこと、そして東雲地区周辺を走る都営バスでは23区内全線有効の定期券のみを発売し、券面に区間の記載を行わない*2*3ことから、この定期券の発駅はりんかい線の東雲駅であると推測されます。
この場合、通学定期券の原則*4と常識的な判断により、件の定期券はりんかい線の国際展示場駅を着駅とするものとみなすことが理に適っているでしょう。
したがって、現実の国際展示場駅=作中世界における「虹ヶ咲学園前駅」という設定が成立します。
つづいて、ゆりかもめの東京ビッグサイト駅と有明駅について検討します。
この2駅の描写について最大の資料となるシーンは、TVアニメと同一のスタッフ陣により制作された『無敵級*ビリーバー』アニメーションPVに登場します。このPVの取材協力としてゆりかもめがクレジットされていることを念頭に置きつつ、以下の画像をご覧ください。
そしてこちらの画像は、筆者が撮影したゆりかもめの東京ビッグサイト駅です。両者を比較して頂くことで、先述のシーンがこの駅をモデルにしていることがお分かりいただけるかと存じます。
さて、当該シーンの駅名表記にご注目ください。「虹ヶ咲学園」とありますね。また、豊洲方面の次駅表記は「有明」と記載されています。
したがって、ゆりかもめの2駅については
という設定であるといえます。
すなわち、ゆりかもめの虹ヶ咲学園駅とりんかい線の虹ヶ咲学園前駅は「前」という語の有無で区別されることになります。東京ビッグサイト駅が「国際展示場正門駅」を名乗っていた頃の関係が逆転したような感じですね。
3.「前」 はどこに消えた?
しかし、ここまでの推論を覆すシーンが第13話に登場します。
それはOP後、開幕を前に多くの観客がスクールアイドルフェスティバル会場へと向かうシーンでした……。
構造物と駅名表記のデザインを見る限り、このシーンのモデルは明らかにりんかい線の国際展示場駅です。しかし駅名は「虹ヶ咲学園駅」。そう、「前」が無いのです。
夢ならばどれほどよかったでしょう。上原歩夢の定期券が虹ヶ咲学園「前」を着駅としている以上、どこかには存在してもらわないと困った事態になります。スタッフがそこまで気にしていなかった、という身も蓋もない*5説はひとまず置いておくとして、上原歩夢を救うべく(?)本記事では2つの仮説を取り上げたいと思います。
3-1.仮説①:アニメの「虹ヶ咲学園前駅」はゆりかもめにある
先程『無敵級*ビリーバー』を取り上げた際に、私は「TVアニメと同一のスタッフ陣が制作した」という前置きを付けました。この事実は、ラブライブのようにメディアごとの設定が大きく変動するコンテンツでは比較的強い根拠づけとなる場合がみられます。しかし、同一のスタッフが制作したからと言ってあらゆる設定が同一になるとも限りません。
そこで、第一の説として「『無敵級*ビリーバー』では虹ヶ咲学園駅とされていた東京ビッグサイト駅は、TVアニメでは虹ヶ咲学園「前」駅である」という仮定を行い、検討していきます。
この説を採用した場合に最も大きな影響を受けるのは、やはり上原歩夢の定期券です。前章での検討では現実の「東雲⇔国際展示場」 であるとされていた彼女の定期券区間は、この説に従うと現実の「東雲⇔国際展示場/有明⇔東京ビッグサイト」となります。
それでは、この2つの定期券を比較してみましょう*6。
【東雲⇔国際展示場】
- 発売額:20,310円
- 学園までの標準所要時分:12分(内訳:乗車2分、出場3分、徒歩7分)
- 発売額:38,460円
- 学園までの標準所要時分:17分(内訳:乗車3分、出場/乗換11分、徒歩3分)
……後者の定期は見事にデメリットだらけです。これを購入する人はよっぽどの好事家でしょう。そのうえ、作中世界では現実の国際展示場駅も「虹ヶ咲学園」の名を冠している以上、ゆりかもめ区間の追加購入は学園からの経路認定時に却下される可能性が十分に考えられます。
これらを勘案すると、この仮定はやや説得力に欠けると言わざるを得ません。
3-2.仮説②:りんかい線虹ヶ咲学園前駅は旅客案内時に「前」を省略している
走行エリア内にご縁のある方ならば、「○○駅」行きの表示を出して走る都営バスを見かける機会がしばしばあるものと思います。しかし、この行先停留所の正式名称は大半が「○○駅"前"」であり、車内の表示器や停留所ではこのような表記がなされています。最も目立つ車両外部の表記では、わかりやすさを優先して「前」を消しているのです。
これとは別に、鉄道の駅においても特定の語を省略して表記する例はしばしば見られます。代表的な例は一昨年頃までの京成電鉄です。同社においては、「京成高砂」「京成成田」といった社名を冠した駅について、駅名標や車両の行先表示では「高砂」「成田」などの省略表記を一貫して採用していました。こちらもまた、行先との関係が薄い「京成」の語をあえて表記しないことで旅客へのわかりやすさを追求したものと考えられます。
第二の仮説は、これら2つを融合したものとなります。すなわち、「作中のりんかい線では、虹ヶ咲学園前駅を案内する際に"前"を消している」という内容です。以下、この説について検討していきましょう。
先程の説では不可解な経路選択を余儀なくされた上原歩夢の定期券ですが、この説では現実の「東雲⇔国際展示場」となり、きわめて真っ当な経路選択がなされています。券面に残る「虹ヶ咲学園"前"」の表記が気になるところですが、正確な旅客運送契約区間を示す必要があるので正式名称での表記を行っている*7と考えればなんら不自然ではありません。
一方で、ゆりかもめとの関係においてはやや混乱が生じます。
すなわち、この説を採用した場合には、ゆりかもめとりんかい線の(見かけ上)両方に「虹ヶ咲学園駅」が存在するがこの2つは接続していないというややこしい事態を招くわけです。「国際展示場正門駅」の時代より難解ですね。これじゃ虹ヶ咲じゃなくて尼ヶ崎学園だ*8とでも言いたいところですが、りんかい線虹ヶ咲学園駅にはゆりかもめ虹ヶ咲学園駅の隣にある有明駅で乗換可能なので、尼崎よりタチが悪い状況になっています。
とはいえ、こうした同一駅名かつ同一市区町村で立地が異なる駅は日本全国にいくつもの例がある*9こと、旅客便宜*10のために省略表記を採用する交通事業者は多いこと、そして何より上原歩夢の定期券がまともなルートになることから、この説を採用する合理性は十分に存在すると考えます。
というわけで、筆者はこの説を支持していきたいと思います*11。
4.おわりに
ここまで読んで「いったい何に付き合わされてんだ?」と感じたあなたは、恐らく正しい感覚の持ち主でしょう。
今後も飽きない限りはこうした謎の考察記事を作っていこうと考えておりますので、気力の続く限りお付き合いくだされば幸いです。
現実逃避をキリよく終えたところで、私はレポート執筆と試験対策に戻ろうと思います。
アディオス!
P.S. かすみん誕生日おめでとう!
*1:3街区、17号棟
*2:キャナルコート周辺を循環する豊洲01系統では専用の定期券を発売しているが、無記名かつ通勤1箇月のみの設定
*3:尤も、東京ビッグサイトが学校施設に変化した場合は公共交通にも少なからぬ影響が生じることでしょう。系統専用定期を発売する学バスの設定もあるかもしれません。その辺りも考察してみたいですね。
*4:自宅最寄駅~学校最寄駅間のみ発売、かつ区間に学校の証明を要する。割引率が高い通学定期券の発売において、不必要な遠回りを制限する規定。参考:定期・回数券|運賃・乗車券|駅情報・時刻表・運賃|お台場電車 りんかい線
*5:現実味は帯びている
*6:いずれも券面表記に従い通学6箇月。所要時分はYahoo!乗換案内にて「平日8:00到着、歩行速度:少しゆっくり」と設定し調査
*7:一例として、先述した京成線においても乗車券類では省略表記を採用していない
*8:JR西日本と阪神電鉄の尼崎駅はどちらも兵庫県尼崎市に位置するが、2km以上離れており相互に乗り換えられない
*9:Wikipediaに一覧記事が存在する程度には多い
*10:本当に明解かは議論の余地があるが、学園から距離があるりんかい線駅の立地で「前」を外すこと自体には一定の合理性があると考える
*11:今後の記事の前提条件として採用する可能性があります。